鳥の羽はどのように進化してきたのでしょうか? 本書では地上の覇者だった恐竜が羽を獲得して、空へと飛び立つようになった過程を丁寧に考察していきます。そして、世界中の鳥たちがもつ軽くて美しい羽の様々な機能を解説するとともに、人間が羽をどのように利用してきたのかという歴史についても論じています。 著者ソーア・ハンソンの「自分の足で調べる」という姿勢が随所で見られます。車に轢かれたミソサザイを解剖したり、様々な研究者に直接インタビューに行ったりと、彼の羽に対する情熱が読者にも伝わってきます。 道に落ちている何気ない羽が、本書を読む前と読んだ後とではきっと違うものに見えるはずです。
第1章から第4章は羽の進化過程を説明します。第5,6章は綿羽のはたらき、第7章から第9章は飛ぶためのしくみ、第10章から第12章は装飾としての機能、第13章から第15章は羽の利用とさらなる進化について述べられています。付録として羽の種類ごとの図説があります。
本書を読んで印象に残った部分をいくつか書きます。
羽の進化については「空を飛ぶために羽が進化した」という機能に着目した「飛行機源説」が主流でした。リチャード・プラム博士は視点を変え、羽の発生に着目しました。つまり、「なんのために」ではなく「どのようにして」という視点から羽の進化について研究したのです。プラム博士の研究によって羽の基本構造とともに進化過程が明らかになりました。
鳥が空を飛べるようになった過程については地上起源説と樹上起源説で長らく意見が割れていました。 地上起源説では、餌となる昆虫などを求めてジャンプを繰り返しているうちに、ジャンプから滑空を経て飛べるようになったと考えています。高いところから落ちて怪我をする危険性が低いということもこの説では主張されています。樹上起源説では樹上性の生物が枝から枝へ飛び移る行動を経て、飛べるようになったと考えています。地上起源説にはないこの説の魅力は、樹によじ登ることによって容易に位置エネルギーを得られるという点です。 これら二つの説の折衷案とも言えるアイデアを思いついたのが、ケン・ダイアル教授でした。ダイアル教授は地上性の鳥類が高い場所に登る際に、足だけでなく羽ばたきも補助として用いているということに気がつきました。この行動を「WAIR(翼に補助された傾斜走)」と呼んでいます。WAIR説の登場によって、地上性の獣脚類が羽ばたきの補助を得ながら樹の上に登り、そこから滑空に至ったというシナリオが考えられるようになりました。
羽は進化の力を端的に表していることがわかります。鳥たちを守り、保温し、装飾し、空を自由に飛ばせているは全て羽の力です。鳥だけではなく人間も羽の恩恵を受け、羽から空を飛ぶ方法を学んできました。そして、羽への執着が多くの鳥たちの乱獲を招いたという事実もあります。 冒頭でこの本を読むと鳥の羽がそれまでと違って見えると書きました。それは、羽の機能や発生過程がわかるようになるという意味と、鳥たちが絶え間なく羽を進化させてきた歴史の壮大さを感じられるようになるという意味の二つの意味を持っています。 そうした意味で本書は、生物の部分に着目することで全体についての考察が深まる良書でした。