カラスは私たちにとって最も身近な野鳥だと言ってもいいかもしれません。 公園や河川敷、駅前の木の梢やマンションの屋上などいたるところにカラスがいます。それにもかかわらず、カラスを観察しているという人は稀なのではないでしょうか。ゴミを荒らしたり、大声で鳴いたりすることから悪いイメージを持っている人も多いかもしれません しかし、カラスは夫婦や親子で実に人間味のある日常を送っています。本書では、カラスたちの生態や習性をつぶさに観察し、彼らの行動の意味についてわかりやすく解説しています。松原始さんの軽妙な語り口と随所に散りばめられたかわいいイラストのおかげで、あっという間に読み終えてしまいます。 カラスの気持ちが少しだけわかるようになり、街中でカラスに出会うのが楽しみになっています。
第一章は、カラスの生態と一生についての基礎知識です。カラスの雑食性と夫婦での子育ての様子がまとめられています。ハシブトガラスとハシボソガラスの見分けかたについても長年カラスを追いかけてきた松原さん独自の方法が紹介されています。
第二章は、カラスの採餌行動と都会以外に住むカラスにまつわる話です。「ブローピング」と呼ばれる餌を探す時の行動や「遊び」など、カラスの知らなかった姿を知ることができます。森の中のハシブトガラスを調査するために、カラスの鳴き声を流してそれに対する反応を見る「プレイバック法」を行なった「山のカラスたち」の章が面白いです。
第三章は、時として嫌われてしまうカラスの行動について解説するとともに、カラスに襲われないための方法も紹介されています。カラスにとって路上のゴミ袋は「皮に包まれた肉」と一緒だという視点にはなるほどと思わされます。
第四章では、松原さんがカラスにまつわる色々な質問に答えています。真面目な質問から面白い質問まで、結構たくさんのQ&Aがあって楽しいです。
序章でカラスの最大の特徴が「ありとあらゆるものを食べる雑食性」と書かれています。読み進める上でカラスの習性や生態について、この視点で説明できることがたくさんありました。 カラスが人間に厄介者扱いされてしまう理由も、人間が作り出す人工的な生態系(定期的にゴミ=カラスにとっての食料が供給される)とスカベンジャーとしてありとあらゆるものを餌としてしまうカラスの特徴によるものだと理解できます。費用を投じて行われるカラスの捕殺よりも、ゴミが路上にある状態をなるべく防ぐ方がカラスの生息数をコントロールできるという話も興味深かったです。 余談ですが、本書を読んだ後に私の家の近くにはハシブトガラスのつがいだけでなく、ハシボソガラスの親子が住んでいるということがわかりました。親子で地面を歩きながら採餌したり、暑い日中に口を開けて休んでいる様子はどこか親しみが持てます。 カラスのことが以前よりも好きになれる一冊でした。