「サボり上手な動物たち---海の中から新発見」|動物たちは、実は「サボっていた」
『サボり上手な動物たち---海の中から新発見』の目次とあらすじ
- まえがき
- 1 実は見えない海の中
- 2 他者に依存する海鳥
- 3 盗み聞きするイルカ
- 4 らせん状に沈むアザラシ
- 5 野生動物はサボりの達人だった!
まえがき
人間はもっぱら視覚に頼って生活している。しかし、陸上に比べて視界が制限される海で生活する生きものたちは、視覚以外の感覚に頼っているはずだ。動物に小型カメラや行動記録計を取り付けて分析する「バイオロギング」の研究をしてきた2人の著者が、海の中で生きものたちがどのように過ごしているのかに迫る。
1 実は見えない海の中
海の中の生きものを長時間にわたって観察することは難しい。水中での呼吸や水圧など、人間にとっての障壁が大きいためだ。そこで、海洋動物学者たちは様々な工夫を考えてきた。「水中観察管」を開発したジェラルド・クーイマンは小型深度記録系を自作し、エンペラーペンギンに装着してデータをとりはじめた。日本人の内藤靖彦も機器メーカーと共同で深度記録計を開発し、装置の改良を重ねた。小型化や音響の測定など装置を用いた「バイオロギング」の手法は年々進化し、生きものたちの行動の詳細がわかってきた。
2 他者に依存する海鳥
小型の記録計を使った研究によって、海中の動物たちの行動がある程度わかってきた。しかし、深い海の底に潜って何を食べているのか、詳しいことはわからなかった。とりわけ、太陽光が届く有光層よりも深く潜る理由は謎だった。周辺の餌分布情報すらなかった、そこで、深度記録計と同時に小型カメラを装着し、動物自身に記録させる試みがなされた。
記録の結果、予想されていたよりも深い、水深250m付近に餌が分布していることがわかった。さらに、アザラシは餌のいない浅い水深で子どもに泳ぎ方を押していることも示唆された。
カツオドリやアホウドリを対象にした調査では、水鳥たちはシャチや漁船のおこぼれの魚を捕食することや、同種の鳥が集まっている場所に向かうことで効率的に餌にありついていることがわかってきた。
動物搭載型カメラは、調査者の主観ではなく、ありのままの様子を記録するため、予想外の発見につながってきた。
3 盗み聞きするイルカ
水生生物の中には音を出しその反射からあたりの様子をさぐったり、他個体とコミュニケーションを取ったりする「エコーロケーション(反響定位)」という手法を使うものがいる。イルカは「クリックス」と呼ばれる音で距離を測ることができる。常時クリックスを行っているわけではなく、他の個体の音を活用したり、安全が確認できる場合頻度を下げたり、ある意味「サボって」エネルギーコストを下げていると考えられている。シャチなどの捕食者に見つからないように、彼らには聞こえない周波数でクリックスを行うイルカも確認されている。エコーロケーションも進化を続けてきたのだ。
4 らせん状に沈むアザラシ
ペンギンから得られた加速度時系列データから、ペンギンたちが潜水を終えて水面に上がる直前、羽ばたいていないのに加速していること示唆された。筆者はこの「浮上時のグラインディング」が本当に行われているのかを確かめた。
水中の三次元移動経路を測定できるようになったことで、水中での生きものたちの行動が明らかになってきた。キタゾウアザラシは潜航中、ある深度に達するとそこから先は仰向けになってらせん上に沈んでいく。マッコウクジラが水面付近で垂直になって寝ている。動物搭載型小型化速度計によって、動物たちが動いていることだけでなく、思ったより動いていないということも明らかになった。野生動物は常に最大限の動きをしているのではなく、けっこう長時間休んでいたのだ。
5 野生動物はサボりの達人だった!
陸上のチーターの速度を測るためにバイオロギングを行うと、時速100kmという予想に反し、時速59kmであった。
さまざまな水中生物の巡航速度は、秒速1~2mである。瞬間最高速度はもっと速いが、動物たちは普段の移動ではそこまで早く泳がない。水中動物の最適速度は代謝速度と関係していることがわかった。低い代謝速度のウミガメ類は移動もゆっくりだ。
私たちは動物たちの最大能力に注目しがちだが、重要なのは平均値である。サボっているように見える動物たちは、実は効率を追求していた。
感想
「バイオロギング」という手法で海の中の生きもの実態を捉えようとした筆者たちの工夫が随所に描かれていて面白かった。「全てを記録する」カメラやセンサーによって、調査者も予想しなかった生きものたちの工夫(=サボり方)が次々と発見されていることを知った。動物たちにとって「サボる(ように見える)=効率を上げ、致死率を下げている」という主張は直感に反していて面白かった。