「進化とはなんだろうか」|多様性を生む「進化」とは

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進化とはなんだろうか

著者:長谷川眞理子

訳者:---

出版社:株式会社 岩波書店

初版:1999.06.21

はじめに

「進化」ということを、私たちは正しく理解できているでしょうか。

「進む」という文字が入っているので、「様々な環境に対して、生物がよりよく変わっていくこと」という「進歩」に近い意味で捉えている人も多いかもしれません。
本書では進化が、「気温が低い環境だから、温かい羽毛をたくさん生やそう」というような意図的、目的的なものではないというところから説明を始めています。

行動生態学を専門とする著者が、自然科学の分野で最も完結で美しい理論の一つとされている進化論について、専門用語をなるべく使わずに解説しています。

「進化とはなんだろうか」の目次とあらすじ

  • はじめに
  • 第1章 生物の多様性と適応
  • 第2章 生命の長い鎖
  • 第3章 自然淘汰と適応
  • 第4章 変異の性質と淘汰の種類
  • 第5章 新しい種の誕生
  • 第6章 進化的軍拡競争と共進化
  • 第7章 最適化の理論
  • 第8章 頻度依存による自然淘汰
  • 第9章 雄と雌はなぜ違う?
  • 第10章 進化の考えがたどった道
  • おわりに

進化論の中でも自然淘汰と適応について、丁寧に説明されています。後半ではゲーム理論に基づく淘汰や性淘汰についても話が及びます。

第1章 生物の多様性と適応

地球上のいきものの様々な多様性について概観します。例えば、ヒマラヤ山脈の上空9000mを飛行することのできるインドガンなど、いきもののもつ特異な性質が適応によるものだと述べられています。

第2章 生命の長い鎖

遺伝子のもとであるDNAについて、その構造や複製のメカニズム、タンパク質の合成などの基本的な事項です。地質学的な時間の中で、DNAの複製の際に生じる些細な変化がやがて個体変異へとつながることがわかります。

第3章 自然淘汰と適応

個体変異があることが、変化していく環境の中で、いきものの集団が適応するもの(適応度の高いもの)と適応しないもの(適応度の低いもの)に分かれていく基盤になっています。自然界の限られた資源を巡る競争が外的要因となって、適応度の高い個体群が広がります。これが自然淘汰です。ガラパゴス諸島のフィンチの嘴の違いを例にこうした自然淘汰の理論を説明しています。
また、本章の最後では「進化は進歩ではない」ことにも触れています。

第4章 変異の性質と淘汰の種類

この章は突然変異や組み換えなど、変異の様々な種類と原理についてです。その次に淘汰の類型について説明されます。中立説にも触れられており、「遺伝子の変異 ≠ 形態の変化」だということもわかります。

第5章 新しい種の誕生

あるいきものを別のいきものと区別する基準となる「種」について、形態的種、生物学的種、認識的種、進化的種という4つの考えを紹介しています。章の後半では新しい種が生まれる種分化と種多様性について実際のいきものを例に説明されます。

第6章 進化的軍拡競争と共進化

あるいきものが住む環境にいる、べつのいきものの状況「生物的環境」に着目して、いきもの同士の軍拡競争から生じる適応について説明しています。また、競争だけではなく、いくつかの種が持ちつ持たれつの関係にあるのが共進化であるとわかります。

第7章 最適化の理論

適応が最適化されているときの数理的なモデルを紹介しています。いきものたちが計算上の最適解に近いかたちで行動しているということに驚かされます。

第8章 頻度依存による自然淘汰

自然淘汰が起きる仕組みをゲーム理論に基づいて説明しています。種によって異なる戦略をとっており、種間のバランスの中で淘汰が進むということがわかります。

第9章 雄と雌はなぜ違う?

いきものの雄と雌の違いがどうして生じるのかというテーマについて、いくつかの仮説を紹介しています。「同じところにとどまっているためには、いつも走り続けていなければならない」という赤の女王仮説は特に印象的です。

第10章 進化の考えがたどった道

博物学から現在の進化生物学に至るまでの、様々な研究者の歩みを紹介します。

感想

進化を理解する上で欠かすことのできない自然淘汰と適応について、非常に平易な言葉で説明されています。

本書で述べられているように、進化が「〇〇に適応するために」ではなく「〇〇に適応した結果」であるという違いは、わかりにくいですが重要なことだと思います。
人間は進化の結果、自意識をもつようになり「なぜ?」という問いを立てられるようになりました。それ故に、いきものの多様性や私たちが私たちである理由を「ために」という目的論に求めてしまいがちです。進化について知っていくにつれ、現在地球上にいるいきものの姿は壮大な時間の経過の中で地球環境と他者(他種)との関わりの結果にすぎないとわかってきます。

「おわりに」で著者が述べているように、進化論が示すともすれば「ドライな」生物学的事実を知ることは、生物多様性や私たちが生きる意味を考える上での正しいスタート地点になるのではないでしょうか。

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